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小樽の老舗「おたる政寿司」の札幌すすきの店

札幌市中央区南7条西3丁目(仲通り)
TEL(011)511-0440
札幌すすきのの仲通りに昭和36年から店を構える「おたる政寿司 すすきの店」(右写真)。
札幌すすきので小樽の新鮮なネタを使った寿司が堪能できるとあって、地元客だけではなく、観光客も数多く足を運ぶ人気の寿司店だ。











1階にカウンター(左上写真)とテーブル、小上がり、2階・3階に大中小の座敷を用意しているので、少人数から大人数までOK。
上質な寿司の他に、一品料理やコース料理などのメニューが豊富なため、様々な会食時に利用することができる。
店の暖簾をくぐると、「いらっしゃい!」という威勢の良い掛け声と、中村社長(左写真左)と店長の古崎さん(左写真右)の優しい笑顔が出迎えてくれる。
“寿司屋に行く”というだけで感じる緊張感が一気にほぐれ、まるで自分の家に帰ってきたかのような安心感に包まれた。







店内は、時間が経つのも忘れ、ゆったりと寛ぎながら食事ができる雰囲気。
どこか屋台のような親しみやすさを感じるカウンター席に座ると、新鮮な魚介類が揃ったネタケース(右上写真)が目の前に広がる。
煌びやかなネタがいっぱいで、どれから食べようか迷ってしまうほど。
さて、このネタケースの中にズラーッと並んだネタの数々は、当たり前のことではあるが、でき合いのものをただ置いているわけではない。
寿司店にとって一番大事だと言っても過言ではない、仕込みをした上で並んでいるのだ。
仕入れた魚介類に一つずつ違った手を加え、一番良い状態に仕上げる技は寿司職人の腕の見せどころ。
「おたる政寿司 すすきの店」では、この多くの時間を費やす仕込みに、他店とは違う様々なこだわりを持っているとのこと。
そこで今回は特別に、その独自の味を造り出す工程を少しだけ見せて頂くことになった。
ネタケースの中でスポットライトを浴びながら出番を待っている、新鮮なネタの数々がここに並ぶまで、どのようなプロセスを経ているのか見ていこう。
光モノの代表として一際輝く【コハダ】
皮のキラキラした美しさが売りの『コハダ』。
“あの光輝く姿がたまらない”と、光モノの代表格であるコハダのファンは多い。
コハダは、絶妙の塩加減と、酢に漬けることで、マグロにも匹敵するネタになる。
「おたる政寿司 すすきの店」では、通常酢に漬けて終わるところをさらに昆布で〆る【二度〆】を行っている。
コハダを開いて、塩をまぶして、酢で〆て、さらに昆布で〆て造るという作業工程は、それほど複雑ではないように思えるが、素早く丁寧にこはだを開く技や塩や酢の加減などは、一日二日で習得できるものではない。

塩水に漬かったコハダが登場(左写真)!!
塩水に漬けておくのは、コハダが持つ光沢感を失わないようにするため。
コハダのウロコを丁寧に取り(右上写真)、包丁を入れると素早く開いていく。
途中でいったん塩水に漬け(光沢感を保つため)、血合いもしっかり洗って、あっという間に全てのコハダを開いてしまった。
開いたコハダは、流水に10分ほどさらす(右写真)。
この作業を行うことで、繊細な仕上がりになるのだとか。
その間に、「冷蔵庫のない時代は、ほとんどの寿司ネタを酢に漬けたり、醤油に漬けたりと何らかの手を加えていた。寿し屋の調理場が【つけ場】と言われるのはその名残なんだよ。」そして、「キレイな仕上がりにするためには、使う道具にも気を使わなくちゃいけない。」さらに、「仕込みをする時は、“今日はキレイだね”とか“身が締まってるね”など、そのネタと話をしながら進めていくんだよ。ネタの状態をしっかり把握する必要があるからね。」など、寿司にまつわる話をいろいろしてくれる中村社長。
カウンター越しにお客様と楽しく会話をしている中村社長の姿が印象的だ。
10分後、ザルの上に紙のように薄い板を敷き、そこに塩を振っていく(左写真左)。
この30cmほど上からまんべんなく塩を振ることを【寸塩】と言う。
この上に水気をしっかりふき取ったコハダをきれいに並べ(左写真右)、塩の濃い場所と薄い場所ができないように寸塩を行って、数分置く。







数分後、いい具合に塩が染み込んだコハダ(右写真)を、酢が浸透しやすいようにしっかりと洗う。
そして、皮同士を密着させて(皮の光沢感を保つため)、冷たい酢に漬けて(左下写真)、さらに数分置く。
冷たい酢に漬けるのは、皮がはがれないようにするため。
このちょっとした手間で仕上がりが全く違ってくるのだと言う。





酢に漬かったコハダは水気をしっかり取って、かくし味である【ゆず】を振り掛ける(右写真)。
このゆずが、全体の味を引きしめ、さっぱりとした味わいを生み出し、「おたる政寿司 すすきの店」のコハダをより美味しくしているのだ。
仕上げは昆布〆。
皿の上に昆布を敷き、その上に丁寧にコハダを並べていく(左右写真)。
これにより昆布から出る旨みで深い味わいが生まれ、コハダそのものの旨みも最大限に引き出されるのだ。
まさに昆布は最高の脇役と言っていいだろう。
“昆布で〆たらできあがり”と、言いたいが、まだ終わらないのが“こだわり”というもの。
鮮度を保つためにもう一工夫すると言う。
何と、真空状態にするのだ。
“酸化を防止するには空気にさらさないことが一番”ということで、専用の装置で真空パックにしていく(左写真)。
スイッチ一つ押すだけで、あっという間にコハダの真空パックができあがり(右写真)!!
1日置くとちょうど食べ頃だ。
艶やかな輝きは、できあがる前から食欲をそそられる。

こうして、コハダの仕込みは終了。
「コハダの大きさや身の締まり、気温、湿度によって、塩や酢の浸透具合は全然違う。気温によって塩の時間を変えたり、酢の温度に注意したりと、あらゆる面に気を配らなければならないんだよ。最近は、回転寿司店のネタも寿司店と変わらない味だと言う声が聞こえるけど、ここまで一つのネタに手間をかけているか、と言えば首をかしげざるを得ないね。」と、中村社長は言う。
様々な諸条件を踏まえて、常に同一の味を保つのはプロならではの技。
作業のプロセスが多いので、その分、職人さんの腕の違いが如実に現れるネタかもしれない。
美味しいコハダに仕上げるためには、長年培ってきた経験と技術、そしてコハダに対する愛情までもが必要なのである。

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